背景
遺伝子表現型に基づいて、よりヘルシーな飲食物の購買行動をうながす世界初のデバイスを作ろうと、ロンドンのバイオ企業、DnaNudge社がTTPにアプローチした。TTPの課題は、店内で迅速にDNA抽出・分析ができるようなデバイスと消耗品を開発することだ。
ソリューション
TTPは、1時間たらずで個人のDNAから複数の遺伝的特徴を識別できるデバイスを設計。クラウドやウェアラブル・デバイスと完全に互換性があるソリューションだ。
成果
DnaNudge社は2019年11月、DNAに基づいてヘルシーな食品選びを提案する世界初のデバイスを、コベントガーデン(ロンドン)の旗艦店でローンチした。
概略
人間ひとりひとりをユニークな存在にしているのが遺伝子と一塩基多型だ。しかし今までは、それらに基づいて消費者が自分を深く知るためには、離れた場所にある遺伝子検査サービス会社にDNAを送るしか方法がなかった。DNAプロファイリングをもっと迅速にし、検査結果にアクセスしやすくする必要性を認識したDnaNudgeは、店内で遺伝的表現型が検査できる、ポイントオブユースデバイスを開発したいと考えた。その情報を加工食品・飲料の栄養成分と組み合せ、よりヘルシーな購買行動を促進するのに活用できる。これを実現するため、DnaNudgeはTTPに、DNAの抽出と分析をするデバイスの開発を依頼した。
「私たちはまず、パーソナライズされたDNA検査というコンセプトを掲げてTTPに相談しました。TTPのバイオ関係のデスクトップ技術の優秀さに感銘をうけ、当社の技術と化学分野の開発を加速するチャンスになると感じました。TTPは、実験室ベースの生物学的プロセスを機能的な装置に組み入れるための基本的な手順を熟知しています。TTPとのパートナーシップを通じて、コンセプトから製造まで、協力して製品を開発することができました。当社のデータベースと組み合わせることで、消費者はきちんとした情報に基づいたヘルシーな食品の選択ができるようになり、健康増進をはかれるでしょう」
――クリス・トゥマズ教授、DnaNudgeの共同創設者、CEO
コロナ禍以前は、コヴェントガーデンの旗艦店内でユニットを稼働していた。
このプロジェクトでのTTPの大きな課題は、通常は資格を持った技術者が行う複雑な多段階の実験室ワークフローを、店員が操作できる自動化プロセスに移すことだ。さらに店舗環境という制約があるため、ソリューションをコンパクトで使いやすい機器と低コストの使い捨てサンプル処理カートリッジに組み込み、その場で完結する処理にアクセサリ製品を柔軟につなげることが必要だった。
プロジェクト当初から、多分野にわたる専門知識を活用して進展を遅らせる可能性のあるリスクを予測、それらを軽減した。ウェル容量は2µl未満のため、低容量で再現性の高い、実験室レベルの精度のPCR結果を保証することが必須だ。流体と熱の制御に関する新しいIPを創造し、低容量の熱サイクル用のカスタム・モジュールを設計することで実現できた。また、低容量PCRに適したプライマーとバッファー配合の組み合わせも開発、DNA増幅が阻害されるのを防ぎ、信号のクロストークを回避するためのさまざまな対策を講じた。
TTPの設計プロセスは製品指向、最初のコンセプトの議論から製品デバイスに至るまでの明快なルートを確立するための基本だ。これには機器と消耗品の堅牢性を確保するための、試作からパイロット規模の製造までの広範なテスト、それに建設を簡素にするための組み立てプロセスの部分的な自動化などが含まれる。同時に、現代の消費者環境に欠かせないコミュニケーションに対応するため、ソフトウェアのアジャイル開発を駆使、クラウドやウェアラブルなクライアント制作のアクセサリとのインターフェイスを十分に用意した。
コロナ禍(COVID-19)からのアップデート
TTPとDnaNudgeはコロナ禍の早い段階で、この技術を応用し、それぞれの医療現場で新型コロナウイルス(Covid-19)感染を特定できる迅速な検査ができそうだと気づいた。両社のチームはすぐに行動し、新型コロナウイルス検査向けにシステムの改良を始める。RNAウイルス検査に対応するためカートリッジを迅速に再設計、逆転写酵素のステップを組み込んで適切なプライマーのパネルを提供。そして最も重要な、検査を行う人の安全のために、患者のサンプルを注入したら完全に密閉されるようにシステムを再設計した。
カートリッジとリーダーは試験的に導入され、1カ月で臨床の実現可能性が実証された。TTPは試験準備済みのカートリッジを製造しており、量産への移行に向けてDnaNudgeをサポートしている。