ケーススタディ

ナノ粒子利用のデジタルパソロジー

TTPの分野を超えた診断専門家たちが、Lumito社の新たなデジタル免疫組織化学のために、染色試薬と組織スキャナーを開発。

背景

パソロジー(病理学)におけるデジタル技術は画像診断にとどまらず、診断の指針として急速に進化しています。これにより、将来の需要に応え、患者の転帰を改善するための技術から染料、分析プラットフォームまで、技術革新の機会が生まれています。

ソリューション

TTPの分野をまたいだ専門家チームは、Lumitoの特許取得済みナノテクノロジーを活用。組織学に基づくがん診断を改善するための新たな組織染色試薬および独自の専用組織イメージング機器を、迅速に生み出しました。

成果

この最新の染色試薬と組織スキャナーは、臨床医による評価にすぐにも使用できる新タイプのデジタル免疫組織化学を実証しており、画像のデジタル化、サンプルのアーカイブ化、自動解析分析へと、将来的に大きな可能性を秘めています。

Lumito ABはスウェーデンのルンド大学からスピンアウトした会社です。アップコンバージョンナノ粒子(UCNP)による新しいナノテクノロジーを利用して組織学に基づく診断法革新のチャンスを探るために、TTPにアプローチしました。

UCNPは1 - 100 nmという微小な希土類金属粒子で、パソロジーやイメージングのさまざまなアプリケーションに適した物理的特性を持ちます。ただし自己凝縮する傾向があり、通常ライフサイエンスではあまり使われない波長の照射を必要とします。

したがって、UCNPベースのデジタルパソロジーの診断ソリューションを創るためには、化学とイムノアッセイ、光学、レーザーシステム・エンジニアリングといった専門知識を独自に組み合わせる必要があります。TTPはそれを速やかに提供しました。

アップコンバージョンナノ粒子とは

UCNPはランタノイドをドープした発光性の希土類金属粒子です。複数の近赤外(NIR)光子を吸収し、より高い (つまりアップコンバートされた)エネルギーの単一光子を放出する特性があります。

図1に例を示します。これはNaYF4格子に増感剤(通常Yb3+)と活性剤Ln3+(別のランタノイド)イオンをドープしたものです。980nmの近赤外光子を照射すると、増感剤イオンが励起され、非放射共鳴によって隣接するLn3+イオンにエネルギーを伝達、それらを長寿命の中間エネルギー状態に励起します。

連続的なYb-Ln移動とNIR吸収イベントの組み合わせによって、Ln3+活性剤の高エネルギー状態が形成されます。

これが基底状態まで放射緩和し、入射するNIR光よりも高エネルギー(短波長)の光子を放出します(いわゆるアンチストークス放出)。

イメージングに利用できる正確なエネルギー移動メカニズムとその結果生じる発光波長は、選択するLn3+によって異なります。例えば、NaYF4: Yb3+/Er3+では約400nmから650nmの離散帯域で放出され、NaYF4: Yb3+/Tm3+は300nmから800nmで放出されます。

したがってUCNPの化学的性質やサイズを調整することで、可能な遷移から特定の帯域を選択することができ、他のUCNPや従来の蛍光色素や対比染色とのマルチプレックス(多重化)・イメージングが可能になります。

UCNPのユニークな光物理学と材料特性は、イメージング・アプリケーションにさらなる利点をもたらします。反ストークスシフトが大きく中間エネルギー状態の寿命が長いことで、バックグラウンド除去が可能になることです。

その上、光退色(光を当てると蛍光が減少する)を起こしやすい他の蛍光色素とは異なり、UCNPは時間経過とともに一貫した信号を生成するため、定量化による診断精度の向上が期待できます。

UCNPを励起するのに必要な近赤外波長は、組織の比較的深いところまで透過します。これによって、UCNPベースの試薬を、薄い組織切片のin vitroイメージングだけでなく、in vitro機能イメージング研究にも応用する機会が生まれます。

診断画像ソリューションの創造(構築)

LumitoのためにUCNPに基づく診断画像ソリューションを開発するには、互いに関連する複数の技術的課題を解決する必要がありました。まず、新しい組織染色試薬を作るには、UCNPにコーティングを施して自己凝集を防ぎ、共役化学を利用して特定のがんバイオマーカーに結合できるように機能化する必要がありました。  

次に、がん組織の染色を高精度・高感度で可視化するためには、専用の組織スキャン装置を、コーティングされたUCNPの励起出力と放出エネルギーで動作するように設計しなければなりません。

TTPの分野を越えた専門家チームはこれらの課題に取り組み、新しい組織染色試薬と独自の専用組織イメージング機器を開発。現在、組織学に基づくがん診断を改善するため、試験的に使用されています。プロジェクトの最新のマイルストーンとして2020年夏、コロナ禍のロックダウン中に、Lumitoに機器のベータ・プロトタイプを納入しました。

アップコンバージョンナノ粒子(UCNP)によるイメージング

UCNPは、新規の染色試薬によって組織サンプルに導入されると、標的とするバイオマーカーに結合。赤外線レーザー光の下で、組織切片の腫瘍領域内の表面タンパク質発現の、高コントラスト・高特異性の画像を提供します。

図2はUCNPをヘマトキシリンでマルチプレックスを実現したものです。重なった赤いTm3+ UCNP信号は、Her2がんバイオマーカーの存在を示します。別のUCNP(例えばEr3+)との多重化により、1枚のスライドに複数のマーカーを表示することも可能です (TTPのブログ「スポットライト:アップコンバージョン ナノ粒子」で説明されています)

左:Her2 がんバイオマーカーの過剰発現領域に結合するように調製された UCNP 試薬のプロトタイプ

右:ヘマトキシリンおよび DAB を明視野で撮影. 。

今後の展望

この新技術で作成される高コントラストの画像は、より迅速で正確ながん診断を可能にすることを目指し、病理医の負担を軽減します。高品質の組織画像は、画像のデジタル化や自動解析にも対応します。  

将来的には、UCNPベースの定量イメージングによって、スキャンしたスライドにAIや機械学習技術を適用することも可能になり(TTPのブログ「Imaging by the numbers」で詳しく解説)、マルチプレキシング(同じナノ粒子を用いて複数のバイオマーカーを定量的に検出すること)も可能になるでしょう。

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