1.遺伝子治療のベクター設計
新規遺伝子治療の臨床的効果は、標的特異性や伝達効率性、遺伝子導入の組み合わせに左右されます。ところがこうした性能属性は、ヒトの体内遺伝子治療での予測が困難です。
イーライリリー社の Genetic Medicine Team の一員で、最近TTP の Invent Life Sciences ポッドキャストにゲストとして出演した Sean Bedingfield 氏の研究では、AI が大いに役立つことが示されています。ベディングフィールド氏は、mRNA 分子を細胞内に運ぶために使用されるウイルスベクターシーケンスや脂質ナノ粒子など、高品質の製品候補を設計するには、従来の化学インフォマティクスに加え、AI の使用が進むだろうと考えています。また、異なるデータセットを統合する上でAI には大きな価値があると考えています。彼は、AI による判断に確かな実験的基盤を示すために、正式な特性評価と品質管理が重要になってきていることを強調しました。
2.モデリング、細胞代謝、培地の最適化
先進的治療の製造では、使用する培地を最適化することで、収率や治療の質、特に重要な治療の力価を、劇的に向上させることができます。にもかかわらず医療業界は、依然として均一な細胞ニーズを想定した市販の培地に大きく依存しています。
Tolemy Bio は、この実態を変えようと努めている企業の 1 つです。モデリング型の手法により、独自の計算プラットフォームを用いて培地を最適化しています。AI を使うことで、組み合わせや生物学的な複雑さ、非線形の細胞反応といった課題を克服し、特定の細胞・遺伝子治療の製造ニーズに合わせて最適化された培地を設計できます。データセットの統合や、より優れた生物学的モデルの強化にAI が活用されるようになるにつれて、このアプローチはさらに強力になると考えられ、治療効果の大幅な向上につながりそうです。
3.デジタルツイン
医薬品の再現性は、今も課題です。そのため現在のプロセス開発は高度なスキルのあるスタッフが行う必要があり、多大な開発コストがかかります。それに加えてドナー材料の不足が、実験的なプロセス開発の高い障壁となります。
この状況で、デジタルツイン(DT)は前臨床段階の企業にとって、製造プロセスの検証やスケールアップの可否、想定されるボトルネックの特定を行う上で大きな価値を持ち、資金調達や開発の優先順位づけに役立つ手段となり得ます。
現在、TTP では生成 AI の能力を活用してデジタルツインの初期開発を加速させるツールや手法の開発に取り組み、専門家の監督のもとで、本開発の基盤となる「シード DT」と呼ばれる初期モデルの構築を目指しています。先進的治療薬の品質を向上し、製造の規模を拡大するため、TTPはこの手法をバイオリアクターのプロセス設計・プロセス制御で実験しています。
4.画像認識
医療での典型的AI応用といえば画像診断でしたし、今後も注目され続けるでしょう。先進治療業界では、画像診断と機械学習アルゴリズムを使用することで、開発と製造のあらゆる段階で細胞を追跡・分類し、製造の自動化と規模拡大の基盤を築けます。
Cellino Biotech の自律型バイオ製造プラットフォームでは、「ラベルフリー・イメージングと高速レーザー編集、機械学習の組み合わせ」により、幹細胞の生産を自動化しています。画像診断のアルゴリズムおよびコンピュータのアルゴリズムを組み合わせることで、ばらつきが多い、コストがかかるなど、手動による細胞療法の生産の限界を超えることが可能です。
Cellino Biotech は、米国のマス・ジェネラル・ブリガムのGCT研究所(Gene and Cell Therapy Institute)と共同で、各患者に特化した臨床グレードの iPS 細胞を生産するための初のオンサイト型製造拠点を建設中です。同社の「Nebula」プラットフォームは、バイオプロセス技術をカセット式システムに集約し、スケーラブルな展開を可能にします。
また、Aspen Neuroscience は Cell X Technologies と提携、Aspen の Xceligent™ プラットフォームにツールや手法を追加して iPS 細胞由来ニューロンの自律的生産を目指しています。このプラットフォームでは、専門家が学習させた機械学習と深層学習のコンピュータビジョン・アルゴリズムを用いて、望ましい細胞分化状態を特定、選択し、生産プロセスを管理します。
5.製造と、製品の市場投入
製造プロセスも医薬品自体も複雑さが増しているため、品質管理は先進的治療薬にとってますます重要なものとなっています。このテーマは、mRNA ワクチンの生産に焦点を当てた TTP Insight で以前取り上げました。
OmniaBio の Strategy and AI 部門長であり、最近TTP のポッドキャストにゲストとして登場した Ken Harris(ケン・ハリス)氏は、医薬品開発製造受託機関(CDMO)が先進的治療薬の製造効率を向上させるため、AI を重視していると述べています。彼はAI を、品質管理に重点を置く自動化のパートナーとして捉えています。「当社の目標は、基本的に同じインフラを用いて 4~5 倍のアウトプットを達成し、コストを削減することです」
以前 Amazon に在籍していた彼は、AI を活用して治療法の製造・配送の物流を改善したいと考えています。OmniaBio はまた、製造プロセスに入る細胞を層別化し、それにプロセスを適応させ、臨床反応まで追跡するための、AI 学習をさせた分類器の開発にも関心を示しています。
さらに期待を寄せるのはデータクリーンルームの開発だと、ハリス氏はポッドキャストで語っています。これによって業界の各企業が、基礎データを明かしたり共有したりしなくても、AI 学習をデータ全体に適用することで製品の品質を向上させることができるというのです。「どれが私のデータで、どんな内容なのか、誰にも知られることなく、すべてのデータに対して計算処理を行うことができます。これはまさに革命的です。」
先進治療の加速
以上のような例でもわかるように、先進治療での製品品質の向上、運用効率の向上、製造のスケールアップには、製造の自動化や解析に AI とデジタル化を導入することがカギです。
TTP の使命は、最先端の先進治療をいち早く臨床の現場へと届けるために、開発を加速させることです。クライアントの製品開発を加速するTTPのカスタマイズ技術ソリューションについて、ぜひお問い合わせください。